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Hævnen 未来を生きる君たちへ

デンマーク映画 (2010)

アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞の外国語映画賞を受賞した名作。邦題は意味がよく分からないが、原題は「復讐」。まさにそのものすばり。世の中にあるいろいろなレベルの復讐が、果たしてどの程度許されるものなのかを真剣に考えさせる奥の深い映画。子役は、ウィリアム・ユンク・ニルスン(William Jøhnk Nielsen)とマークス・ウィコール(Markus Rygaard)の2人。主役級はウィリアムの方〔冒頭の3つの解説は、2015年11月の初公開時のものを そのまま使用〕

映画は、デンマークの郊外と、アフリカの医療キャンプに2つに分かれて進行する。まず、デーマークで学校で起きる小さな虐めに対し暴力的な反撃が加えられ、虐めの連鎖が断ち切られる。町で起こった粗暴な人間による一般人への理由なき暴行に対しては、抑制した対応が不満の原因となり、最終的に爆弾テロにまで発展する。アフリカでは、殺人を平気で起こす凶悪なボスに対し、医者としての義務で怪我の治療はしてやるが、キャンプ内でボスが取った非常識な行動に激怒してキャンプから放り出し、住民のリンチに任せる。第1の復讐は、深刻な虐めという問題への対処法としては、許容できなくもない。第2の復讐は、明らかに行き過ぎであり、犯罪行為である。しかし、その原因となったのは、暴力を悪いことだと立ち上がらなかった優柔不断な対応であり、もし、もっと決然とした姿勢をとっていればテロは起きなかったであろう。第3の復讐は、暴力が横行し住民の多くが凶悪なボスの被害者という特殊な環境下においては許容されるのかもしれない。しかし、こうした二重基準(デンマークでなら許されないが、アフリカでなら許される)は果たして本当に正しいのだろうか? 映画が観客そして人類に対して投げかける疑問は、深くそして重い。

2人の子役のうち、主役となるのは、国際的なビジネスマン・クラウスを父にもつクリスチャン役のウィリアム。デンマーク総合芸術大賞の主演男優にノミネートされたほどなので、抜群の演技力とハンサムさで圧倒的な存在感がある。もう一人のマークスは、アフリカで医者を勤めるアントンを父にもつエリアス役。映画の実質的主役は、ウィリアムとアントンなので、エリアス役が意志薄弱な3枚目ということもあって、影が薄いのは否めない。

あらすじ

デンマークに住むスウェーデン人の医師アントンが、宿泊施設から難民キャンプに向かトラックの荷台に乗っている。この場所は、漠然とアフリカとなっているが、想定しているのは、スーダンのダルフール紛争の難民キャンプ〔撮影はケニアの難民キャンプ、ナイバシャ(Naivasha)で行われた。この映画の撮影にあたり、スーダンはデンマーク外務省に抗議し、ケニアのスーダン大使館は、この映画が上映されれば、「ダルフールに深刻な社会的不和をもたらすだけでなく、現在解決中の危機を深刻に複雑化させるであろう」との声明を出し、スーダンの外務省は、「この映画は人種差別主義の反イスラム映画」だと断じた〕。アントンがキャンプに入って行くと、子供達が 英語で「How are you」と何度も叫んでトラックを追いかける。医療施設の手前でトラックが停まると、アントンはサッカーボールを取り出し(1枚目の写真、矢印)、子供達の中に投げ入れる。そして、タイトルが表示される。デンマーク語の『Hævnen』の意味は「復讐」。映画の内容には、こちらの方がぴったり合っている。なぜかと言えば、映画の中には多くの復讐が描かれているから。英語のタイトルは『In a Better World(より良き世界で)』。いずれにせよ、日本語のタイトル『未来を生きる君たちへ』は、不適切かつ内容を反映していない。難民キャンプでは、大勢の患者に対し、医師はアントンと黒人の計2人。だから、深刻な病人か怪我人にも十分に対応できない。①左手がない男性: 診断結果は 「もう問題ない」。つまり、感染症は起こしていないので、そのまま右手で生きろということ。このあと、シャツ1枚で汗だくになったアントンが汗を拭い(2枚目の写真)、ミネラルウォーターで水分を補給する。②右手に包帯を巻いた女性: 「痛みがなくなっても 外さない。4週間だ」と指導(すべて、通訳が現地語に訳して患者に伝える)。③女性が抱いた赤ちゃん: 「彼女には解熱剤を処方する。1日3回」。そこに、④急患が運び込まれる。手術が必要な怪我なので、黒人の医師が助手になり、2人で対応する。手術の内容は分からないが、手術が終わって医療施設から黒人医師と一緒で出て行く時、彼から 次のようなことを知らされる。「前にも あんな傷を見ました。ならず者、“ビッグマン” の仕業です。胎児の性別を、手下と賭けてると聞きました。そして、妊婦の腹を裂くんです」(3枚目の写真)。医療スタッフを乗せたトラックは難民キャンプを出て宿泊施設に向かう。アントンは、手術の際に血の付いたシャツを脱ぐと、顔を水で洗う。あまり衛生的な環境とは言えない。余程の使命感がない限り、あるいは、世捨て人でない限り〔アントンは後者〕、このような施設で長期間働き続けることは耐え難いであろうと思わせるような場所だ。

場面はロンドンに変わる。クラウスは世界を股にかけて活躍するビジネスマン。一人息子のクリスチャンも父と一緒に暮らしているので、世界各地を転々と移らざるを得ない。ロンドンでのシーンは、クラウスの妻、クリスチャンの母の葬儀。彼女は、脳腫瘍で苦しみながら亡くなり、それが夫にもクリスチャンにも耐えがたい精神的な苦痛を与えた〔ロンドンでの滞在は長かったのであろうか? その間、母はずっとロンドンの病院に入院していたのであろうか? それとも、病気が長期に渡ったのなら、転院してロンドンに来たのだろうか? 映画は一切情報を与えてくれない〕。葬儀の場面は、クリスチャンの朗読から始まる。デンマークの著名な作家アンデルセンの童話『ナイチンゲール』の最後に近い部分で、クリスチャンは 「今は、お休みになって、若く強く おなり下さい。ナイチンゲールは、歌い続けました。皇帝が甘く、安らかな、眠りに入られるまで」で朗読を終える(1枚目の写真)〔何となく、母の死をイメージしたような内容〕。朗読を終えたクリスチャンは、牧師によって席につかされる。場面は、葬儀の後の故人を偲ぶ会に移り、クリスチャンは、ハンナという女性に、「寝る前、母が読んでくれました」と話している。そして、祖母(父系)は父に、「あの子 立派だった」と褒める。そして、父は、祖母をハンナに紹介するが、その時、彼女は祖母に、「今後は、お孫さんと同居を?」と尋ね、祖母は「ええ」と答え、父も 「クリスチャンも、家に帰りたいだろ?」と訊く。クリスチャンは頷く。クリスチャンが、準備室のような場所に入って行くと、父は後を追って入って来て、呼び止めると、「さっきは立派だった。お前を誇りに思う。ママもきっと、そう思ってる」と褒める。クリスチャンは、「僕のことは いいから」と言うと(3枚目の写真)、父から離れて行く。

そのあと、アントンが、難民キャンプでの医療行為の定時休暇で、ブレザーを着て宿泊施設を出て行く短いシーンが入る。一方、クリスチャンを助手席に乗せて父が運転するAudi A6 C6が裕福そうな農場に入って行く(1枚目の写真)。撮影はデンマークのフュン(Fyn)島のどこか。先に帰っていた祖母が、玄関を開けて出てくると、孫のクリスチャンを 「待ってたわ」と抱き締める。そして、「広いし、平和で静かよ。自由にしてね。インターネットもある。好きな部屋を選んで」と、にこやかに語りかける。クリスチャンは、屋根裏に当たる2階に行くと、順に部屋を覗き、端っこの方にある小さな部屋が気に入る(2枚目の写真)。あとから検分に来た父が、「一番小さな部屋だぞ」と言うが、「ここでいいよ」と答える。あまり賛成でない父は、「今、決めなくてもいい」と言うが、クリスチャンは、「自分で、選べるって」と我を通す(3枚目の写真)。「もちろん。でも、机とベッドで一杯だぞ。ま、お前が選んだんだ。好きになさい」。暗くなり、父は、自分の部屋の中に、ロンドンから別送されてきた多くのダンボールを順に開いて中身をチェックしている。中には、懐かしい写真も入っていたが、楽しかった頃の写真に混じって、亡くなる直前、頭髪がなくなった妻の写真が出てくる(4枚目の写真、矢印)〔すぐ右にある写真と比べれば、急激に癌が進行したらしいことが分かる〕

翌朝、クリスチャンは父の車で学校まで送ってもらい、トランクから帰宅時に使う自転車を取り出す(1枚目の写真)〔行きだけ送ってもらったということは、クリスチャンにとってこの学校が初めて、もしくは、場所も覚えていないくらい小さい頃に通っていたことを示唆しているように見える。しかし、後で出てくる高さ40mの巨大サイロに、クリスチャンは「昔は、よく登ってた」と言う。細い筒状の覆いのついた鉄梯子を40m登り、柵のない屋上に上がるのは、10歳未満では不可能であろう。そして、デンマークは1年生から10年生までの国民学校が基本。だから、12歳になって初めてこの中学校に行ったという状況ではないハズ。そういう意味で、理解できない場面〕。父は、「緊張する?」と訊き。クリスチャンは 「うん」と答える。「一緒に行くか?」。「いいよ。大丈夫」〔ここでも、“初めての学校” を感じさせる表現〕。そして、クリスチャンの前方では、一人の少年が、大勢の虐めっ子に囲まれ、汚い言葉を浴びている(2枚目の写真)。「どうした、ネズミづら?」。「(自転車の)空気満タンだな?」〔始終、空気を抜かれる〕。「舌 なくしたのか?」。「股くぐれよ、ネズミ野郎」。「クズ!」。「帰って、チーズでも食ってろ」。「よう、ネズ公」。「ヘドロ好き」。「スウェーデン野郎」。「このミュータント」。「失せろ」。「ドブネズミ」。短時間の間に、これだけ罵詈雑言が浴びせられる。ネズミが多いのは、歯列矯正用のワイヤーのせいか? クリスチャンは、虐めの中心人物を睨みながら通過して行く。担任はクリスチャンと一緒にクラスに入って来ると、「転校生のクリスチャンだ。クリスチャンは、いろんな国で暮らしてた。今回は、ロンドンから」と紹介する。誰かが、「デンマーク語 話せる?」と冗談ぽく訊くと、「もちろん話せるとも」と言い、「カレンダーに誕生日を書こう」と、誕生日を訊く。「7月7日」と聞き、カレンダーを見ると、「エリアスと同じか。偶然だな」と言い、「じゃあ、クリスチャンは エリアスの隣に」と指示する。エリアスは、さっき虐められていた生徒。クラスでも評価は高くなく、「かわいそう」の声も出るが、クリスチャンはエイアスの隣に座る時、笑顔を見せる(3枚目の写真)〔映画の中で見せる唯一の笑顔〕

授業が終わり、クリスチャンはエリアスと一緒に自転車置き場に行く。エリアスの自転車のタイヤは空気が抜かれてペチャンコ。それを見たクリスチャンは、「空気入れ、いる?」と訊く。「ううん、いい。バルブも盗られてるから。いつものことさ。押して帰るよ」。ここでクリスチャンが、「他の自転車のを使ったら?」と言うが、この一語で、クリスチャンの性格が分かる。エリアスは、「その子が困る」と応じ(1枚目の写真)、ここでも、エリアスの性格が分かる。クリスチャンは、友達のためなら、あるいは、“悪” に対抗するためなら、どんなことでも平気でする “強い子”、エリアスは常識的で気は優しいが、その分、気が弱く、“悪” のいいなりにされても反抗できない “弱い子”。そして、クリスチャンは、そんな言葉は無視し、「たまには いい」と言うと、隣の自転車からバルブを外し(2枚目の写真)、エリアスに渡す。すると、エリアスを監視していた一番のワルが、「人のタイヤをペチャンコかよ」と文句をつける。「お前、誰なんだ?」。「クリスチャンだ」。「ネズミづらと何してる?」。「ネズミづら?」。「ネズミみたいな前歯だろ」。「他人の口なんか覗かない」。すると、ワルは、手に持っていたバスケットボールをいきなりクリスチャンの顔めがけて投げつける。クリスチャンは地面に倒れ、鼻血が出たので、手で押さえる(3枚目の写真)。ワルは 「キャッチ失敗かよ」と嘲り、エリアスには、「お前は 自転車引いて帰れ」と命じる。ワルが去った後、エリアスは、「巻き込んじゃって、ホント、ごめん」と謝る。夜遅く、父が仕事から帰って来て、クリスチャンの部屋に電気が点いているのを見て、部屋を覗きにくる。「寝てないのか?」。「ゲーム、終わらせる」。「シャツに血が」。「サッカーしたから」。「殴られたのか?」。「違う。ボールが当たっただけ」(4枚目の写真)〔この弁解は、虐められっ子と似ているが、実はそうではないことが翌日分かる〕

翌朝、アントンがバスで故郷に戻って来て、バスセンターで待っていたエリアスが父に抱き着くシーンがある(1枚目の写真)。これで、冒頭の医者アントンの息子が、虐められっ子のエリアスだと分かる。「会えて嬉しいよ」。「会いたかったよ」。「旅行は?」。「長かった。でも、慣れた」〔何回目の休暇なのだろう? この返事から、それほど多くはなさそう〕。待合室から2人が出て来ると、路上駐車した車の中で冷めた顔で待っていた女性が、車から出て2人を迎えるが、2人が触れ合うことはない。3人が向かったのは、家ではなく、エリアスの学校。父親の久し振りの帰宅に合わせて、保護者面談が行われたからだ。対応するのは担任と、相談窓口の女性教師〔エリアスは廊下で待たされているが、会話は筒抜け〕。担任は、「彼は殻に閉じ籠っています。何とかしませんと」と口火を切る。母がすぐに反論する。「毎日、タイヤの空気を抜かれ、ネズミづら呼ばわり」〔タイヤは見れば分かるが、ネズミづらは、どうやって知ったのだろう〕。担任は、「ソフスだという証拠は何もありません」と強く否定する。「本人は やってないかも。でも、マフィアみたいに子分がいて、陰で操ってる」。今度は、女性教師が 「彼を庇う訳ではありませんが、空気を抜かれる生徒は他にもいます」と、事なかれ主義のお粗末答弁。この教師は、さらに責任を転嫁する。「エリアスの立場も大変なんです。アントンさんは、いつも外国で父親不在は辛いでしょう」〔父の人道的な行為を批判している〕。「それに、お二人にも かなり問題があります」。母が、「問題って、何です?」と訊く。「あなた方の別居です」。この一言は、これまでのグダグダした2人の教員の態度にイライラしてきた母の怒りに火を点ける。「私生活に口出すなんて! 関係ないでしょ! 余計なお世話よ。子供の事でショックなのに、親の私生活にまで。これじゃ、最後には転校よ。だって、ソフスみたいな子は、サドの変質者よ!」(2枚目の写真)。別居中の妻がこう怒鳴り終えた後、アントンは、「もし、私たちに対し建設的なご提案があれば、どうぞ」と、あまりにも融和的な意見を、穏やかに発言する(3枚目の写真)〔ある意味、この映画における “諸悪の根源” は、このアントンの “事を荒立てるのを嫌う”、“何事にも消極的” な態度にある。それが、よく現われている〕

学校側の責任回避が見え見えの面談の後、妻は、いつも住んでいる家をアントンと2人の息子に明け渡し、自分はサマーハウスに移る(1枚目の写真)。一方、アントンは、2人の子供を抱いて、家の外のテーブルに座っている(2枚目の写真)。エリアスは、「ママに、花でも贈ったら? チョコレートとか」と進言するが、無視される。

翌朝、クリスチャンが自転車で学校に着くと(1枚目の写真)、またエリアスが、虐められている。「ひでぇ顔だな」。エリアスは、クリスチャンを習って反論する。「うるさいな」。「黙れ、スウェーデン野郎」。「通りたきゃ靴にキスしろ。どうする、グズ?」(2枚目の写真、矢印は何だろう? 「靴」には見えないが?)。そして、ワルのソフスは、その “何か” をエリアスの顔に真正面から擦り付ける。エリアスが、「きったねぇ~」と言って逃げ出すので、汚いものであったことは確か。それを茂みの向こうから見ていたクリスチャンは、エリアスとソフスの後を追う〔エリアスを顔を洗うためにトイレに向かい、ソフスはその後を追って行った〕。3枚目の写真は、エリアスが下りて行ったトイレへの階段に向かうソフス。手前はクリスチャン。

トイレの洗面台でエリアスが顔を洗っていると、後ろからソフスが入って来て、「よお、エリアス。昨日〔i går〕のこと、訊かれたら…」(1枚目の写真)〔なぜ、今日のことではないのか?〕。「言わないよ」。「俺は 何もしてない。黙ってろよ。チクったら、死ぬぞ」。その頃、クリスチャンはトイレの入口まで来ると、カバンから空気入れ〔日本のと違い小型の棒状〕を取り出し、トイレの中に駆け込み、ソフスの背中を思い切り空気入れで殴る(2枚目の写真、矢印)。数発殴ると、ソフスは床に倒れる。その状態でさらに10発弱、体じゅうを殴りつける。そして、ソフスに馬乗りになると、今度はナイフを取り出し、首に突き付け、「二度と手を出すな!」と警告する(3枚目の写真)。「分かった」。「誓え!」。「何もしない」。「僕じゃなく、誰にもだ! 死にたく なかったらな!」(4枚目の写真)。「もうしない」。「分かったか?!」。「分かった」。クリスチャンは、空気入れを拾うと、エリアスと一緒にトイレから逃げ出す。エリアスは、「ナイフ 隠して! 退学になる!」と注意する。

授業が始まる前の暴力沙汰だっただけに、さっそく警察が呼ばれる。2人は、別々に聴取を置ける。場面は、まずエリアスから。警官は、「エリアス、なぜ嘘を付く?」と訊く。「付いてません」。「クリスチャンは、ナイフ所持を認めた」〔嘘。誘導尋問〕「空気入れで、何度も頭を殴った事も」。「殴り合いは見たけど、ナイフは見てません」(1枚目の写真)。次いで、クリスチャンの聴取。警官は、「エリアスは、君がナイフを持っていたと」と、こちらも嘘で証言を引き出そうとする。「持ってません」(2枚目の写真)。「誰かが 嘘を付いてる。真実が知りたい」。「殴られたから、殴ったんです」。「空気入れで、だね?」。「仕方なく。僕より ずっと大きいから、張り倒される」。ここで、もう一度、対エリアス。「事態は深刻だ。片目を失明するかも」。これに対しても、エリアスは、「なら、イジメをやめるかも」と、強気の発言。学校には、クラウスと エリアスの母が呼ばれる。校長は、後からきた母に、「卑劣な暴行です。ナイフが使われとの情報もあります」と話す。「ナイフ? ありえないわ」。それまで黙っていたクラウスも、「息子は そんな子じゃないし、ナイフも見つかってない」と抗弁する(3枚目の写真)。母:「で、エリアスは何を? ソフスを殴ったの?」〔殴ってればいいのにと思っている?〕。「警察が調べていますから、待ちましょう」。

帰りの車の中で。エリアス:「ソフスは失明するの?」。母:「誰が、そんなことを?」。「警官」。「頭痛がして、傷は残るかもしれないけど。軽症でよかったわ」〔母は地元の病院の看護士なので判断できたようだが、彼女は、ソフスの傷を見る機会などあったのだろうか?〕クラウス:「なぜ、黙ってた? 向こうの親と相談できたのに」。クリスチャン:「みんなが、見てた」。「答えになってない」。「反撃しなかったら、みんな 僕を殴ってもいいと思う」(1枚目の写真)。エリアスの母:「あの子、ナイフを持ってたの? 誰にも言わないから」。エリアス:「持ってなかった。もう訊かないで」(2枚目の写真)。クラウス:「やられたからって やり返してたら、きりがない。分からないか? 戦争と同じだ」。このあとのクリスチャンの意見が非常に彼らしい。「最初に、猛反撃すればいい。分からないだろうけど、どこの学校でもそうさ。誰も、僕には手を出さない」(3枚目の写真)。

その夜、アントンから妻に携帯がかかってくる。ポイントのみの紹介。アントン:「君が 恋しい」。妻:「やめてよ」。「謝っただろ。心の底から反省した」。「私は、誇りに思ってたわ。簡単に離婚するような バカな夫婦とは違うんだと。お互い愛し合ってたと」。「今でも愛し合ってる。私は、過ちを犯した。どうかしてたんだ。自分がどんなにバカだったか君に分かってもらいたくて、必死に説明しようとしたけど…」。「傷ついたわ。私たちが一緒にしてきた事は、全部 嘘だったの?」。「愛してる」(1枚目の写真)。「許してあげたいけど、無理」(2枚目の写真)。アントンの不倫が招いた別居の理由と、2人の関係が分かるシーン。

クリスチャン、エリアス、ソフスの3人が校長の前に座らされ、後ろには役立たずの教師2人が立っている。校長は、「これで、一件落着にしたいの。みんなが過ちを」と切り出す(1枚目の写真)〔エリアスは何も過ちを犯していない〕。この言葉に「はい」と言ったのは、ソフス。彼は被害者ではなく、諸悪の根源だったので当然であろう。校長:「でも、学んだでしょ?」。エリアスが頷く〔なぜ彼が? 彼は何を学んだ? クリスチャンの強さ?〕。校長:「暴力からは、何も生まれないって」。この言葉の主たる対象者のクリスチャンは何の反応も示さない。校長:「不幸中の幸い」。「ええ」と言ったのは、担任〔ソフスに甘かった責任を追及されなくて済む〕。校長:「では、エリアスとソフス。握手して」。2人は立ち上がり、ソフスが 「エリアス、ごめん」と謝り、エリアスは 「うん」と答える(2枚目の写真)。校長:「クリスチャンとソフス。握手して」。2人は立ち上がり、同時に短く、「ごめん」と言う。校長:「じゃあ月曜に。遺恨はなしよ」。校長室から解放され、先に、クリスチャンとエリアスが出て行くと、後から出て来たソフスが、クリスチャンに向かって 「話せるか?」と声をかける。これは、恐らく、ソフスは、クリスチャンの中に自分と同じような “ボス性” を見て、友達になろうとしたのであろう。しかし、クリスチャンは、言下に断り、エリアスを連れて去っていく(3枚目の写真)。そのあと、エリアスは、あの日、急きょナイフを隠した場所までクリスチャンを連れて行き、廊下に誰もいないのを見届けてから、天井のパイプの奥からナイフを取り出し(4枚目の写真、矢印)、クリスチャンに返す。クリスチャンは 「欲しい?」と訊き、エリアスが 「いいの?」 と嬉しそうに言うと、ナイフをエリアスに渡す。

クリスチャンは、祖母の農場の前に拡がる広大な “刈り取りの終わった小麦畑” で4輪駆動の玩具の無線自動車を高速で走らせ、エリアスが横に座って見ている(1枚目の写真)。そこに、クラウスがやって来て、「クリスチャン」と声をかける。「何?」。「出かけてくる。帰りは、明日の4時のフライトだ。電話する」(2枚目の写真)。そして、エリアスに、「夕食 食べてったら?」と訊く。「どうも。でも、帰らないと」。「じゃあ、週末にでも」。「たぶん」。ここで、クリスチャンが口を挟む。「もう、行ったら?」。彼が父を嫌っているのが、部屋選びの時に続き、再確認できるシーン。クラウスが去った後、エリアスは、「行先は?」と訊く。「ロンドン」。「ママはどこ?」。「死んだ」(3枚目の写真)。普通なら、こうした悲しい話には何か言うべきなのだが、あまり常識を教えてもらっていないエリアスは、何も言わずに、「ウチは、離婚寸前」と話題を変えた後、何と、「何で死んだの?」と、訊かない方がいいことを平気で訊く。「癌だった。最初は良くなるって。でも、ダメだった。火葬にした」。「そうなの?」。「土葬は不衛生だ。腐って地下水に混じる。僕も火葬がいい。君はどう?」。「多分… でも、考えたことない」。クリスチャンは 怒りの塊だ。その原因は母の死にあるのだが、その一端が ここでも垣間見える。

そのあと、2人は自転車で港まで行く。エリアスが 「ここで 何するの?」と訊くと、クリスチャンは一瞬見上げて 「登る」とだけ答える。エリアスが見上げると、そこにあったのは、高さ40mの巨大サイロ。「登れる?」と訊く。「もちろん」。そして、サイロの閉鎖された入口に自転車を置くと、鉄柵の隅をくぐり抜け、中に入って行くと、クリスチャンが鉄の梯子を登り始める。最初の段まで上がると、その先は、垂直の鉄梯子。安全のための周囲に鉄の筒状の柵が設けられた中を、登って行く。次のシーンでは、もう屋上。クリスチャンは、屋上の端に座り、怖くて近づけないエリアスは、その後ろに立って景色を見ている(1枚目の写真)。それを下から見上げたのが2枚目の写真(矢印)。足が2本見えるのが端に座ったクリスチャン。極めて危険な行為だ。そして、ここで、前に紹介した、「昔は、よく登ってた」の台詞が発せられる。この場所は、フュン(Fyn)島の南にあるランゲラン(Langeland)島のルーケベルグ港(Rudkøbing Havn)に 1960 年代初頭に作られたサイロ〔Hævnen+Siloで検索したら、運良く発見できた〕。3枚目は、グーグル・ストリートビューの映像。場面は、再び、サイロの屋上に戻り、どうやって撮影したのか分からない4枚目の映像が入る〔本当に座っているとしたら、危険すぎる〕。最後は、家に戻ったエリアスが、アントンに自転車のタイヤの空気抜けの修理をしてもらっているシーン。エリアスが、「埠頭のサイロに登ったんだ。すごく 高かった」と言うと、アントンは、「登っちゃダメだ」と即座に否定する。「クリスチャンは毎日登ってる」。「そうだとしても、あそこは危険だ。子供が遊ぶような所じゃない。登らないと約束しなさい」。「うん」。「『うん』じゃない。約束だ」。「分かった」。「何の約束?」。「サイロには登らない」。

恐らく翌日、アントンとエリアスの弟モルテン、クリスチャンとエリアスが、カヤックを貸し出し場まで運んでいる(1枚目の写真)。その時、エリアスが 「アイス欲しい」と言い出し3人で買いに行くが、年下のモルテンだけは、「ブランコしてくる」と言って走り出す。3人がアイスクリームを食べながら戻って来ると、モルテンが同じくらいの年頃の少年と喧嘩をしているので、アントンが 「何やってる、モルテン?!」と叫び、ブランコの所まで走って行く(2枚目の写真、矢印)。そして、2人を引き離し、「なぜケンカなんか?」と息子に訊く。「僕が ブランコとった」。「どうして?」。「いきなり僕を殴ったから」。そこで、アントンは、もう一人に、「何で、殴った?」と訊く。親に似て性悪なチビは、「殴ってない」と嘘を付く。そこにやって来たのが、中東移民の極めて性悪な男。いきなりアントンの服をつかんで立ち上がらせ、「おい、きさま、何だ?」と 怒鳴るように訊く。「仲裁を」。男は、自分の性悪チビに 「何した?」と訊く。「ブランコしてたら、とられた」。それを聞き、今度はモルテンに 「おい、そうなのか?」と、脅すように訊く。アントンが、「子供のケンカですし…」と口を挟むと、野蛮なだけの男は、「黙れ! 俺のガキに触るな! 分かったか!!」とアントンの胸を突く。「触ってませんよ」。ここで、野蛮な男は、「どうなんだ!!」と言うと、「どうなんだ!! はっきりしろ!!」と怒鳴りながら、アントンの頬を3回連続して引っ叩く(3枚目の写真)。そんなおぞましいことをされたことのないアントンは、「何て乱暴な」と言っただけで応酬せず、「失せろ!」と言われ、そのまま逃げるように去る。4人がいなくなると、野蛮人は 性悪チビに 「何やりやがった? またケンカか! このクソったれが!」と叱るので、親子揃って野蛮人だとはっきりする。モルテンは、自分の喧嘩のせいで父が殴られたので、「ごめんなさい、パパ」と謝る。「お前が謝らなくていい。悪い事は何もしてない」。「ケガしたんでしょ? 病院 行かなきゃ」。「何ともない」。ここで、クリスチャンが、当然のことを提案する。「警察には?」。今や、“手下” になったエリアスも、すぐさま、「そうだよ、警察に届けよう」と言うが、ここで、アントンは最大のミスをする。「必要ない」。彼の事なかれ主義が言わせた言葉だが、その結果、将来 多大な迷惑をクリスチャンとエリアスにかけたことを思うと、ある意味 許されざる判断ミスだ。アントンの誤判断に対し、クリスチャンが 「殴られて?」と再考を迫ったのに(4枚目の写真)、情けないアントンは 「さあ、もう帰ろう。車に乗って」としか言わない。「もう、済んだ事だ」。妻と交代でサマーハウスに行ったアントンは、海に飛び込み、叩かれた頬を手で押さえるので、未だに痛むほど叩かれたことが分かる。それでも、暴力行為を放置しておいた罪は大きい。こうした事なかれ主義が 野蛮人をここまで増長させた訳で、海外で難民のために尽くしているのなら、悪のために敢然と立ち上がるべきだった。

翌日、エリアスを連れてサイロに登ったクリスチャンは、柵のない屋上の縁から30センチのところを、縁に平行に歩いている。小心なエリアスは、屋上の真ん中の柱に寄りかかったまま、「もう登るの やめようよ」と言う。「なぜ?」。「登って何するの?」(1枚目の写真)。「眺めてる」。そして、下を見ると、昨日の野蛮人がいるのが見える。「奴だ!」。「誰?」。「君のパパを殴った奴」。クリスチャンは 「行こう」と、走り出す。クリスチャン達は、野蛮人の車まで行くと、車の横の 「LARS AUTO 各種修理承ります 電話70 36 95 01」の、修理工場名をノートを書き留める(2枚目の写真)。車の中の凶暴な犬が何度も吠えるので、それに気付いた野蛮人が戻って来ながら、「おい!! 何してやがる!!」と怒鳴る。住所はネットで調べることにして、「逃げろ! 殴られる」と、2人は一目散に逃げ帰る。次のシーンでは、サマーハウスで雑誌を読んでいるアントンのところに自転車で行ったエリアスが、「これ 渡そうと」と言って、ポケットからメモを取り出す(3枚目の写真、矢印)。「何だ?」。「パパを殴った奴の住所。調べたんだ。そこで働いてる」。「どうやって調べた?」。「僕とクリスチャンが、埠頭で奴の車を見つけた」。「またサイロに登ったのか?」〔話をはぐらかす〕。「ううん。クリスチャンは毎日登ってるけど」。「お前もだろ?」。「登ってない」。「本当だな?」。アントンの “言い逃れ” と “無反応” に苛立ったエリアスは、「これで、何かしないの?」と、話題を戻す。「例えば、何をしろと?」。「行って、張り倒すとか」。「本気なのか?」。「怖いの?」。「そういう事じゃない。やられたら、やり返す。それじゃ、何も良くならん。ひどい世界になるぞ」〔そもそも、すぐ警察に届けていれば、こんな事態にはならなかった〕「奴はバカだ。だが、殴り返せば父さんは大バカだ。監獄行きにでもなったら、奴の思うツボだ」。「そんなの弱虫だ。ママにも嫌われる」。「誰が弱虫だって?」。「パパさ」。アントンは、エリアスが帰った後、木の下に横になって、蜘蛛をじっと見たり、サマーハウスの中を考え込んで歩き回る。

その結果、翌朝、4人を乗せた車が 「LARS AUTO」 の前に停まり、アントンを先頭に子供3人が工場に向かう(1枚目の写真)。中に入ると、アントンは大きな声で、「ハロー」と呼びかける。女性の事務員がやって来て、アントンは、「ローシュさんは?」と尋ねる。アントンは、スウェーデン出身なので、「Lars」をこう発音する。最初、女性には通じない。「誰ですって?」。「ローシュさんは、ここでは?」。「ラース?」。「ローシュ」。これで納得した女性は、「ラース! スウェーデンの方よ!」と呼びかける。すると、車の下のピットからラースが顔を出す。アントンは、「覚えてる?」と訊く(2枚目の写真)。「遊び場で、あんたに殴られた。思い出した?」。「ああ、覚えてる。それが何か?」。「なぜ あんな事を?」。「俺のガキに触った」。「私は喧嘩を止めただけ」。「ご苦労さん。これで満足か?」とニヤニヤした顔で言うと、ピットから上がりながら、「もう俺に 近づくな。でなきゃ、痛い目に。分かったか? え?」と、近くに寄って来る。アントンは、「なぜ殴ったか、言おうか?」と言う。野蛮人は 「黙れ。とっとと スウェーデンへ帰れ〔「とっとと中東へ帰れ!」と言いたい〕。理解できんな。こんなトコまで来て〔ラースは、暴力しか能のないバカなので、何も理解できない〕」と生意気な言葉を吐く。アントンも、「腕力に自信があるから、殴った」と、意味のない〔間接的で、抗議にもならない消極的な〕言葉を並べる。「その通りだ」。女性事務員が、「ラース、もう やめなさいよ」と注意するが、脳の腐った野蛮人は、「もう一度、殴られたいか?」と言う。デンマーク人の工員も、「やめろ、ラース」と注意するが、アントンは、「あんたはバカだ。殴る事しか能のない大バカだ」と、こちらも、言うべきでない誹謗を口にする〔もっと別の言い方があったハズ。例えば、暴力行為の警察への通報警告など〕。結果として一発頬を殴られる(2枚目の写真)。アントン:「ほらな」。工員:「やめろ、ラース」。野蛮人:「俺に何をさせたい?」。「知りたい?」。「ああ、教えてくれ」。「あんたを恐れていない事を、子供たちに見せたい」〔何と愚かな発想。これでは、暴力を肯定することになる。恐れていなければ、いくら暴力を受けてもいいことになるから。この映画で一番悪いのは、アントン〕。「俺が怖くないのか?」。「ない」。「平気なら、もっと殴られたいんだな?」。「あんたは、私を殴り、子供を怖がらせた。子供たちは動揺し、ここを見つけた」。「利口じゃないか。 ここを探し出すとは」。「君は、大バカだ。謝罪する事さえ出来ないばかりか、殴りたくて仕方がない」。アントンはまた殴られる。「どうだ? もう一発いくか?」。エリアスは、「帰ろうよ」と言い出す。「もう一発か、え?! 失せやがれ、このスウェーデン野郎!」。アントンは、それに対して何も言わず、自分の2人の息子に、「痛くないよ。大丈夫だから。さあ、行こう」と言い、何と、野蛮人にまで 「邪魔したな」と言って工場から出て行く。

そして、外に出たアントンは、息子達に、頬を押して 「どこも痛くない」と言い(1枚目の写真)、「怖くもない。奴には、あんな事しか出来ない。クズだ。分かるな?」とも。それに対し、何が言いたいか “分からない” エリアスは 「何が?」と訊く。「クズは、相手するだけ時間の無駄」。ここで、クリスチャンが、「あいつ、負けたと思ってない」と当然の指摘をする(2枚目の写真)〔“変なスウェーデン野郎を追い払ってやった” としか考えていない〕。「それでも、奴の負けだ」〔どうみても、言い逃れ〕。「違うよ」。これ以上、議論ができなくなったアントンは、「行こう。もう十分だ」と3人を車に乗せる… この愚かな行為により、あとでどれだけの犠牲が出るか考えもせずに。無責任なアントンが難民キャンプに戻る前に最後にしたことは、息子2人と凧揚げすること(3枚目の写真)。結局、彼は、自分の不倫による妻との不仲から逃げて難民キャンプで働き、子供たちの教育にはタッチせず、事なかれ主義に徹して生きているロクデナシだ。

アントンが帰ってから、どのくらい日数が経ったのかは分からないが、サイロの端にクリスチャンだけでなくエリアスも座っている。そして、下を見たクリスチャンが、「奴だ」と言う(1枚目の写真)。そこにいたのは、吠えるしか能のない犬を連れた野蛮人。クリスチャンの批判は続く。「怖がってるのに、誰も 何もしようとしない」。次のシーンでは、クリスチャンの祖母の農場の納屋で、2人が、学校でのテーマ週間での展示用に、ラウンド・タワーの模型を作っていて、クリスチャンがメモを見る(2枚目の写真)。塔のてっぺんには柵があるので、「柵になる物、探してくる」と言って、納屋の上の方に登って行く。すると、柵に使えそうな鉄の網を見つけることができたが、それを引っ張り出した時、1番上の棚に置いてあるダンボール箱に “ロケット花火” と書いてあるのに気付く。クリスチャンは、箱の中に残っていた花火3本を取り出してエリアスに見せると、「きっと、おじいちゃんが買ったんだ。ここに置いとけない。納屋が吹っ飛ぶ」と言う(3枚目の写真、矢印)。「ただの花火で?」。「大量の黒色火薬だ。1キロ以上もある。大きな爆弾が作れる」〔箱には、15本入り、黒色火薬11500gと書いてあったので3本なら2.3キロ〕

クリスチャンの話は、ここからエスカレートしていく。「あいつ、君のパパを殴り続けた。怖くなくても、殴られた事に変わりない。奴に思い知らせてやろう」(1枚目の写真)。その次のシーンは、かなり後。クリスチャンは、ネットで爆弾の作り方を調べ、それに使うパイプを用意し、エリアスの前で、ロケット花火を解体して得た黒色火薬をスプーンですくってはパイプに詰めていく(2枚目の写真、矢印)。一杯まで詰めると、パイプに導火線を入れて蓋をする。そして、完成した試作品を持って海岸に行く。パイプを中に入れて爆破するのは、ラウンド・タワーの模型。3枚目の写真は、怖がりのエリアスがパイプ爆弾を持つ役を断ったので、クリスチャンがパイプ爆弾を持ち、エリアスが導火線にマッチで火を点けているところ(矢印)。これを観ていると、せっかく作っている塔の模型を壊してもいいのかと思ってしまうが、未公開シーンの中に、ラウンド・タワーの模型を展示している場面(4枚目の写真)がある。だから、爆破は、この展示が終わり、不要となった模型に使ったことが分かる。模型の中にパイプ爆弾を投げ込むと、2人は走って逃げ、爆弾は模型を吹き飛ばす(5枚目の写真、矢印は模型が置いてあった場所)。

爆破が成功し、2人は大喜び。クリスチャンは、「もっと大きなの 作ったら、どうなると思う? 奴の車なんか、吹っ飛んで粉々だ」と言い出す。頭の冴えないエリアスは、最初にクリスチャンが 「奴に思い知らせてやろう」と言って爆弾を作り始めたのに、その言葉を忘れてしまっていて、「誰の車?」とボケた質問をする。「くそったれ ラースのさ」(1枚目の写真)。「あいつの車、爆破するの?」(2枚目の写真)。「もちろん」。「誰かに見つかるよ。車は高価だし」。「君のパパ、喜ぶぞ」〔頭のいいクリスチャンなら、こんな思い違いはしないと思うのだが…〕。「そうは思わない」。「どうでもいい。悪は制裁する」〔クリスチャンに、この台詞を言わせたかったのか?〕。それに対し、エリアスは、参加への拒否反応を示す。すると、急にクリスチャンの態度が変わる。今までの、“手下” から “赤の他人” への格下げだ。クリスチャンは、「やらないんなら、あのナイフ返せよな」と捨て台詞を残すと、エリアスなんか放っておいて、一人で自転車に乗って去って行く(3枚目の写真)。

一方、アントンがいる難民キャンプの中の医療施設に、ある日、ビッグマンに腹を裂かれた妊婦が運び込まれる(1枚目の写真)。手術は無事終了し、アントンは、彼女を運び込んだ夫に会いに行く。「生きてると、伝えて」と通訳に言う。夫の顔が綻ぶ。「できる事は、やった。後は 待つしかない」(2枚目の写真)。通訳が、「ありがとう、先生」と、感謝を伝える。「何があったか、訊いて」。「男達が車でやって来て。彼の妻は 妊娠してたので逃げ遅れました。ビッグマンが 2人の女性の腹を裂き、死にました」。それを聞いたアントンは、その内容には何も言わず、「結果は明日に」とだけ言って別れる〔彼には、感情がないのだろうか?〕

エリアスは、自分の部屋で、せっかくもらったナイフを名残惜しそうに見ている。そして、ナイフをセーターの中に隠すと、母の寝室の前を通って、パソコンの置いてある部屋に向かう。そして、ナイフを取り出すと、手に握り、アントンと相談しようと、スカイプを立ち上げるが、アントン側がオンラインになっていない(1枚目の写真)。そこで、ノートパソコンを閉じるが、バカなことに、そっと閉めずに、バタンと音を立てる。その音で、眠っていた母が目を覚ます。エリアスは、再びナイフをセーターに隠して自分の部屋に戻るが、その時、母が起きているのを見て、逃げるように部屋に行き〔本当にドジでバカ〕、急いでナイフを棚に隠すが、母が入ってきた時には、まだ棚に向かってしゃがんでいたので、すぐにナイフが見つかる。ナイフを手に取った母は(2枚目の写真)、「エリアス、これナイフね。嘘付いたの? 私や警察に。気は確か!!?」と、ヒステリックに叱る。「一体、何 考えてるの!?」。「何も」〔無能〕。「何も?」。そして、災難はクリスチャンに振りかかる。

爆弾魔になったクリスチャンが、パイプ爆弾の蓋をペンチで締めていると(1枚目の写真)、車がやって来る音が聞こえたのでたので、作業を中断し、誰が来たのか納屋の入口まで見に行く(2枚目の写真)。車から降りて来たのは、エリアスの母だった。2人は何か話すと、クラウスは母を家の中に連れて行く。それを見たクリスチャンは、映画では映らないが、エリアスがドジを踏んだと判断し、父が必ずやって来るので、納屋の中を片付け、いつも遊んでいる4輪駆動の玩具の無線自動車をテーブルの上に出す。

しばらくすると、そこに 想定通り父がやって来ると、「クリスチャン」と呼んで、エリアスの母から受け取ったナイフを見せる(1枚目の写真、矢印)。クリスチャンはそれを無視する。「何 考えてる? 人を 刺す気か?」〔脅すのに使っただけ〕「人生 破滅するぞ! クリスチャン、私を見なさい。見るんだ、クリスチャン」。クリスチャンは完全無視。父は、ナイフをテーブルに叩きつけるように置くと、「クリスチャン。お前を愛してるが、これは見過ごせん。ちゃんと 話し合おう」と言う。ところが、初めて口を開いたクリスチャンの言葉は、「ヤッたの〔Har du kneppet hende〕? エリアスのママとヤッたの?」という異常なものだった。意表をつかれた父は、「何だ、それ?」と訊く。「ヤリたかったんだろ? 向こうもだ」。「それが 親に対する、口の利き方か?」。「『話し合おう』って言ったろ」。「黙れ! いいか、そんな戯言(たわごと)、二度と言うな!」。「『戯言』じゃない!!」、「最低の戯言ごとだ。何で そう怒鳴る?」。ここから、話の内容が飛躍する。「この大嘘付き! ママは知ってた!! みんなも 知ってた!!」〔母の死に関すること〕。「いいか、クリスチャン。もし、ママが今のお前を見たら すごく悲しむぞ。罵詈雑言。なぜ、私を誹謗する!?」。「誰とヤッてもいいけど、善悪の説教なんかされたくない」。「ナイフは違法だ。絶対 学校に持って行くな! 二度と! 分かったな? 絶対に!」。ここで、クリスチャンは、もう一度話を戻す。「ママの死を望んでた」。「違う」。「死んで欲しかった!! 『ママを 安らかにする』 だ? ママは死にたくなかった」(3枚目の写真)「パパは あきらめた! そんなの許せない。分かった?」。この一連の非難で、クリスチャンが、ロンドンから帰ってから、父に対して距離を置いていた理由が判明する。彼は、末期の脳腫瘍にある母を、父が見捨てたと確信し、それが許せないために、感情が屈折していたのだ。翌朝、学校で、謝ろうとエリアスが待っていると、クリスチャンがやってきてソフスと仲良く会話を交わしている。それを見たエリアスが走って行ってクリスチャンの肩に手を掛け、「しゃべってない。ママが見つけて暴走したんだ。信じてよ」と頼むが(4枚目の写真)〔母にナイフを見つけられたことが大失敗なのに、何一つ謝罪していない〕、クリスチャンは、「手を離せ! もう話しかけるな。メールもだぞ!」と けんもほろろに絶交を宣告する。

難民キャンプの中の医療施設に、ビッグマン配下の銃で武装した “ならず者” 6名を乗せたトラックが突っ込んで来て、威嚇のために銃を発砲する(1枚目の写真)。その直後にもう1台も到着、そちらから降りた ならず者が、アントンを見つけ、銃を構えてトラックの前まで連れて行く(2枚目の写真)。そのトラックの荷台にいたのは、怪我をした残虐行為で悪名高きビッグマン(矢印)。この ならず者のボスは、アントンに、「医者か?」と訊く。「そうだ」。「俺の脚 治せるか?」。アントンが左脚の膝から足までの下腿部を見ると20cmほどにわたって縦に大きな傷口が開き、数十匹の蛆虫が這っている。ビッグマンは 「切断したくない」と要求する。アントンは 「やってみよう」と肯定したあとで、「キャンプ内で武器は禁止だ」と言う。それを聞いたビッグマンは、「俺が決める!」と怒鳴るが、アントンは 「だめだ。私が決める」(3枚目の写真)「武器と車はキャンプから遠ざけろ」と静かに言う。脚をどうしても治してもらいたいビッグマンは、銃を構えた部下どもに何事か叫び、ならず者どもは出て行く準備を始める。建物の中に戻ったアントンに、黒人の医師が、「あいつが、ビッグマン。妊婦たちを切り裂いた奴です。怪物ですよ」と教える。それを聞いたアントンは、2人の ならず者に両側から支えられて中に入ってこようとするビッグマンに向かって、「車は迷惑だ。車と武器は、キャンプから遠く離して。でないと治療できん。脚を失うぞ」と、恫喝する。1人しかいない医師を殺す訳にはいかないので、ビッグマンは従わざるを得ない。手下どもは、2人を除いていなくなる。その日の夕方、患者用のテントの一角に横になったビッグマンが映る。2人の ならず者がすぐ横に付き添っている。アントンが宿泊施設に戻ろうと、施設から出ると、難民キャンプとの仕切りの向こうから、先日、妻の腹を裂かれた男と通訳が呼びかける。「先生! ビッグマンを助けないで。あいつは悪魔だ。なぜ 助けるんです?」。「義務だから」。「奴は赤ん坊を、みな殺しに…」。「気の毒に」。「あいつは悪魔です」。「行かないと」。ビッグマンの要求を蹴って、トラックを去らせたところまでは見事だったが、治療しないとキャンプ全体が攻撃される恐れがあるので、この答弁は当然であろう。ある意味、現地人の夫の方が、視野が狭くて、非常識な無理を言っているとしか思えない。しかし、その先、宿泊施設に戻るトラックの中で、同僚の黒人医師がアントンにかけた台詞 「あなたは 変わった人だ〔You are a strange man〕」は実に奇妙で、脚本のミスとしかいいようがない。何が「変わって」いるのか? ビッグマンを助けたことが? 助けなかったら、犠牲者が出ていたかもしれない。アントンが怒りに任せて殺され、代わりに、黒人医師が銃を突き付けられて手術をさせられたかもしない。その、どこが「変わって」いるのか? これでは、黒人医師がバカにしか見えない。観ていて腹立たしいい一言だ。

それから1週間以上が経ち、アントンが診察をしていると、ビッグマンの新しい手下が2人入ってくるのが見える。これは、約束違反になるので、アントンはすぐ後を追う。そして、ビッグマンのところまで行くと、「付き添いは、2人のはずだが?」と訊く(1枚目の写真)。「落ち着けよ、先生。杖を持って来た」(矢印)「今、帰らせる」。2人は直ちに腰を上げて出て行く。従順な行動を見せたあとで、ビッグマンは 「まだ悪い〔脚が〕。なぜ、時間がかかる?」と文句を言う。「ひどく感染してた。時間がかかる。いいな?」。「力を取り戻さないと。隣にオマールがいる。俺の後釜を狙ってる」。そのあと、ビッグマンは、アントンの取り込みに入る。「あんた、友達だろ?」。「いいや、違う。ベストは尽くすが」。「ここじゃ、誰もが殺される。男も女も子供も。あんたは殺さないから友達になれる」(2枚目の写真)「すごく有力な友達に」。アントンの表情が全く変わらないので、ビッグマンは、「答えろ!」と迫る。それに対し、アントンは、ある意味、バカにしたような笑顔を見せて(3枚目の写真)立ち去る。

それからまた日が経ち、アントンは若い女性の重篤患者を救うことができず、死んでもしばらく蘇生措置を止めず、黒人医師から止めるよう進言される。アントンは、いつも通り顔を洗い、死んだ女性は布を被せられる。そこに、両方の脇の下に杖を挟めば何とか歩けるようになったビッグマンが、手下2人を連れてやってくる。ビッグマンは衝立を勝手に開けて中を覗くと(1枚目の写真、矢印)、ニヤニヤ笑い、「小さなプッシー、大きなペニス」と唾棄すべき言葉を平気で言う。アントン:「何て言った?」。ビッグマンは、同じ嫌らしい言葉を繰り返すと、「終わったんだろ? オマールが彼女を欲しがる。オマールは死体が好きだ」と言う。それを聞いたアントンは、我慢の限界を越えて豹変する。「出てけ!」と言うと、衝立まで行き、ビッグマンを押し、「外へ 出ろ!!」と怒鳴る。「出ろ、出てけ!! 今すぐ、出てけ!! もう立てる。出てけ!!」。その怒鳴り声は、多くの難民の耳にも届く。そして、アントンは、「もう病人じゃない。立ち去れ!!」の怒鳴り声と共に、ビッグマンを地面に押し倒し、杖が吹っ飛ぶ(2枚目の写真、矢印は杖)。「病気じゃない! ここから出て行け!」。ビッグマンも必死だ。「先生、俺は丸腰だ」。「ここから出ろ!」。「外は、敵だらけなんだ」。「私の責任じゃない。今すぐ出ろ! もう病気は治ってる」。そう言いながら、アントンはビッグマンの腕を引きずり、医療施設から難民キャンプに放り出す。外で待ち構えていたのは、ビッグマンとその手下にいいようにされてきた男達。彼らの怒りが無防備の男に向けられる(3枚目の写真)〔当然リンチで死亡する〕。これは、ある意味、アントンが、“難民によるビッグマンへの殺人” を幇助したことになる。逆に言えば、アントンがもし、これに近いことを、ラースにしていれば、その後の悲劇は起きなかったのに、その時点ではまだ意志薄弱だった。真の悪に直面し、それがアントンの人格を変え、周辺環境に配慮する人間に変貌させた(4枚目の写真)。

しかし、こうした変貌は、アントンにとって大きな心理的負担となり、宿舎に戻ってからも、自分が “怒りに任せてやってしまった行為” が正しかったのか、間違っていたかに迷う(1枚目の写真)。そこに、スカイプの呼び出し音が鳴り出す。それは、エリアスからだった(2枚目の写真)。「話せてうれしいよ。今日が、スカイプで話す日だったか?」。「違うけど、話したかった」。しかし、その時に限って接続状態が悪く、うまく話が通じない。エリアスは、卑劣にも、クリスチャンの秘密を父に話そうとする。「クリスチャンだけど、だいぶ前に死んだお祖父さんが 納屋に花火を一杯残してた。誰も 知らないんだ。クリスチャンは爆弾を作って車を爆破するつもりだ」。しかし、アントンには全く聞こえない。アントンは 「悪いんだが、すごく疲れてるから話は明日にできないか?」と言って切る。

優柔不断で意志の弱いエリアスは、クリスチャンに見捨てられたくない一心で、昨夜は、父にバラして凶行を止めようとしたのに、次の朝はクリスチャンを待ち構えていて、「僕、やるよ。爆弾 作らせて。バカの車を吹っ飛ばそう」(1枚目の写真)「君の言う通りだ。復讐しよう」と声をかけ、再び仲間に加えてもらう。しかし、いざ学校が終わり、納屋に戻ると、急に弱気になる。「他の車は どうなるの?」。「隣のには当たるから、窓が割れる」。「もし人がいたら?」。「誰もいない」。「どうして?」。「朝早くにやる。日曜なら、みんな寝てるから誰も通らない」。ここで、頭の悪いエリアスが、「僕、日曜にサッカーやるよ」と言い出し、「朝の7時にやるのか? また、臆病風か?」と、疑われる。「違うよ」。「後戻りできない。やるんだ」(2枚目の写真)。「もちろん。やるよ」。土曜の晩、クリスチャンは、ベッドの下に隠しておいた3本のパイプ爆弾をそっと取り出すと、ベッドの上に敷いた布の上に置き、慎重に布で包む(3枚目の写真、矢印)。そして、それを横に置いてあったリュックの中に入れる。

そして、今後どうなるか分からないので、思いのたけを父にぶつけておこうと、クラウスの書斎に入って行く。そして、「僕が死んでも、ここに住み続ける?」と質問する(1枚目の写真)。父は、異様な問い掛けに、「いいか、お前と議論する気はない。死ぬもんか」と返事する。「死ぬかも」。「いいや、ありえん」。「死んだら、ロンドンに戻る? お祖母ちゃんと、ここに住む?」。「悲しくて、どこにも住みたくなくなる」。「死んでも、どこかには住まないと。どうして質問に答えないの?」。「何を言わせたい?」。「なぜ、いつも嘘を?」。「こんなのバカげてる。私は嘘など付いたことはない。なぜそう非難ばかりする?」。ここから、クリスチャンが怒鳴り始める。「ママは良くなると言った!! 痛みはないと!!」(2枚目の写真)。「お前を心配させないためだ」。「そんなこと ない! 死んで欲しかったんだ! 知ってるんだ。認めたら? 死んで欲しかったと!!」。「確かに、その通りだ… 最期には。ママの、望みだ」(3枚目の写真)「私は… 耐えられなかった。ママもそうだ。癌が脳に転移して、ママは痛みで悲鳴を… 何度も、死なせてくれと… だが、お前が可哀想で できなかった。“あきらめた” と言うなら、お前の言う通り あきらめた。だが、“死んで欲しかった” とは違う」。父の必死の言葉にもかかわらず、クリスチャンは父の胸を殴って 自分の部屋に走って戻る。なぜ、この正直な話にもかかわらず、クリスチャンは父を殴ったのか? 考えられる唯一の可能性は、それを打ち明けずに隠していたことに対する不満であろう。

翌朝、まだ薄暗い時間帯に、クリスチャンは、爆弾を持って自転車で出かける(1枚目の写真)。そのあと、少し明るくなってからエリアスが家を出て行く(2枚目の写真)。この “遅れ” は到着時間の遅れにもつながり、ラースの車の前で、クリスチャンはイライラしながらエリアスの到着を待っている。そこにようやくエリアスが到着し、「遅れてごめん」と言わずに、「ホントに やるんだね?」と言う。ホントに、どうしようもないグズだ。遅れているので、クリスチャンは、爆弾をもってラースの車まで走ると(3枚目の写真、矢印)、爆弾を車の真下に入れる(4枚目の写真、矢印)。

そして、「爆発まで1分ある。ゆっくり歩いて戻るんだ」と言い、エリアスに導火線に火を点けさせる(1枚目の写真)。そして、建物の影まで引き返すが、車の方を見ていたエリアスは、車の向こうから、親子連れが朝のマラソンで走ってくるのに気付く。そこで、「ダメだ!!! ダメだ!!!」と絶叫する(2枚目の写真)〔親子連れには 意味不明の言葉〕。それでも通じないので、エリアスは親子連れの方に走って行き、「ストップ!!」と、理解できる言葉で叫ぶ。「戻れ!! 爆発するぞ!!」。これで、ようやく親子連れは逃げ、それと同時に爆発が起き、車が逆さまに吹っ飛ぶ(3枚目の写真)。エリアスは、車の向こうに倒れたまま動かないので(4枚目の写真、右端の矢印は親子連れ、その左の矢印は倒れたエリアス)、クリスチャンは 「エリアス!!」と叫び、親子連れに向かって、「救急車を呼んで、救急車を!!」と叫ぶ。クリスチャンの行為は確かに明らかなテロで、擁護の余地はないが、もしエリアスが時間通りに来ていれば、親子連れは来ず、彼が爆発に巻き込まれることはなかった。

エリアスは、母が勤める病院に搬送される(1枚目の写真)。その様子を一目見た母は、エリアスの ①不安定な脈、②腹部の大きな裂傷を見て、看護士でありながら、「エリアス!!」と大声で何度も泣き叫び、他の医師から 「誰か母親の面倒を」と、近づかないように隔離される〔この母の “レベルの低さ” はアントンと似たり寄ったり。ただ、アントンがビッグマンへの対応で、良し悪しは別として思考能力を回復させたのに比べ、こちらは依然として自分を制御できず、利己的で偏執的なまま〕。一方、警察署では、クラウスが呼ばれ、クリスチャンが取調べを受けている。「いいか、君のやった事は犯罪だ。だが、指示されたとしたら別の問題も。その点を確認しておきたい。どうなんだ?」。クリスチャンは、「全部、僕一人で」と答える(2枚目の写真)。「エリアスは?」。「僕の考えです。彼は、従っただけ」。『デンマークにおける少年犯罪への法的対応』という論文には、「犯罪行為時に15歳未満だった者については、刑法上の制裁が科されることはないし、勾留されることもない。子供に対する対応は、福祉的対応のみとなる」「15歳未満の子供の取調べには、福祉機関の代理人が立ち会うほか、親権者も同様に立ち会いが求められる」「福祉的対応は、コムーネ(地方自治体の単位で、コムーネの人口は数万人から 10 万人程度)の福祉機関が、様々の形でイニシアティブをとることによって実施される」「コムーネの執行機関は、12〜17 歳の問題行動等を起こす子ども又は少年について一定の義務を課することを決定する。その内容は… 一定の範囲・重さの犯罪、重大な問題行動… 等となっている。少年への命令の具体的な内容は、一定の行動義務という形を取る。たとえば、一定の時間には自宅にいなければならないといったことなどがあげられる」などと書かれている。映画では、福祉機関の代理人らしい女性は同席しているが、父のクラウスは廊下で待たされていて、上記の既定の「親権者も同様に立ち会いが求められる」と なぜか合致していない。また、この取調べの後、クリスチャンと父は署を出て車に乗るが、それは、上記の「勾留されることもない」と合致している。その車の中では、2人とも一言も口をきかず、難しい顔をしている(3枚目の写真)。

クリスチャンが最初に向かった先は、エリアスが運び込まれた病院。父には車で待っていてもらい、一人で様子を見に行く。エリアスの母が、頼み込んで婦長と一緒に病室にいると、受付けの女性が、「クリスチャンって子が、エリアスに会いたいと。寄こしていい?」と訊きにくる。承諾した母が廊下に出て行くと、そこに神妙な顔のクリスチャンがやって来て、「無事ですか?」と訊く(1枚目の写真)。法律の知識のない母は、「なぜ、警察にいないの?」と、つっけんどんに訊き返す。「いましたけど、父がここに」。「お父さんは、どこ?」。「一人で会いたくて」。それを聞いた母は、一気に頭に血が昇り、クリスチャンの頬を両手でつかむと、「よくもまあ ノコノコと! 息子を殺しておいて、このキ印が! 殺したのよ!」と、自分の思い込みだけで、虐待寸前の行為に走る(2枚目の写真)。「顔も見たくない。分かる? あの子が死んだのは、あんたが甘やかされた悪ガキで、人の命を好き勝手に もて遊んだからなのよ! 出ておいき!!」と、首を絞めながら怒鳴る。その声に気付いた婦長が出てきて、「もう十分。止めなさい!」と、“甘やかされて常識のない” 母親を引き離す。夜になり、自分のベッドで横になったクリスチャンは、“死” について悩む。翌日、かなり時間が経ってから、ドアが開き、担当医が入ってきて、CTの結果を知らせる〔エリアスは、クリスチャンが来る前から病室にいたので、CTの結果がでるまでに異常に長い時間がかかったことになる〕。「脳出血なし。腹水は最少。術後の経過は順調。他には損傷はない」(3枚目の写真)。つまり、日が経てば元通りになるということで、昨日、クリスチャンに3回も “殺”、“死” という言葉を使ったのは、過剰な嘘ということになるが、彼女には、その言葉を訂正する気などさらさらない。つまり、そこまで気が回らない。看護師としては失格だ。

しばらくして、アントンが、知らせを受けて緊急に戻ってきて、病院に直行する。アントンが病室に入って行くと、ちょうど担当医が来て、エリアスを眠りから起こし、鼻カニューレを外す(1枚目の写真)。意識が戻り、両親を見たエリアスは、「ごめんなさい」と謝る。母が 「いいの」と言うと、「クリスチャンを怒らないで」と、友達を救おうとするところは立派。父は、「後でいい」と言うが、エリアスは 「僕が悪いんだ。やりたかった。クリスチャンを説き伏せた」と嘘まで付く(2枚目の写真)。母:「後で話しましょ。今は休んで」。

父は、車で家に向かう途中で、助手席の妻に 「あの子たち、何でこんな事を?」とバカなことを聞く。彼には、このすべてが、自分の無責任な行為がもたらした悲劇だという認識が全くない。彼が、ラースを警察に告発していれば、爆弾は作られず、2人の少年が心と体に傷を負うことはなかったのに。何と愚かな質問だろう。これに対し、事情を知らない妻は、「分からない」と答え、さらに、「けがは大丈夫そうね」と言う〔自分がクリスチャンに言った失言は、とっくに忘れている〕。夫は、「完全に回復する」と言う。最初、アントンは、妻を家に送った後、自分はサマーハウスに行くが、しばらく考えてから家に戻り、妻が寝ているベッドに入って行き、そこで、妻はアントンを許す(1枚目の写真)。一方、クラウスの方はもっと悲惨だ。自分の母がいる部屋で、「一体 どうすれば… エヴァ〔死んだ妻〕は、いずれあの子が私を憎むだろうと… 最期の頃… エヴァは… 譫妄状態で… 辛かった。どうすれば、元に戻れるのか… 最愛の息子なのに…」と嘆く。クラウスの母、クリスチャンの祖母が、可哀想な息子を抱き締める(2枚目の写真)。

真夜中近くになり、クリスチャンは父がまだキッチンでコーヒーを飲んでいるのを、廊下からじっと見ていた後、何も言わずに戻って行き、今度は空を見上げる。一方、妻と愛し合ったアントンが、食堂に1人でいると、寝室から携帯の呼び出し音が鳴る。妻が電話を取ると、それはクラウスからだった。物忘れの激しい彼女は、もうクラウスが誰だか分からない。「クリスチャンの父親の。夜分に済みません。クリスチャンが行方不明に。そちらに お邪魔してないかと」。「いいえ、いません」。その頃、クリスチャンは、サイロの地上部を歩いていた。アントンが、「何だって?」と訊きに来ると、「クリスチャンが、行方不明だと」と知らされる(1枚目の写真)。サマーハウスに戻ったアントンは、エリアスが残していった “レゴで作ったサイロ” を見て、もしかしたらと思い当たる(2枚目の写真、矢印)。

クリスチャンは、サイロの屋上まで登って行く(1枚目の写真)。そして、屋上の端まで行くと(2枚目の写真)、目を閉じる。クリスチャンには、エリアスが無事だという情報が伝わっていないので、彼は、エリアスを死なせたことを悔いて、自殺しようとしている。

クリスチャンが両手を上げて飛び降りようとした時(1枚目の写真)、サイロの屋上に、アントンが現われ(2枚目の写真)、「クリスチャン、エリアスのパパだ」と呼びかけ、「端から離れて。下がるんだ」と言いながら次第に近づいて行き、一気に抱き着いて、後ろに引きずり込む(3枚目の写真)。

アントンは、魂が抜けたようなクリスチャンに向かって、「エリアスなら無事だ。回復してきてる。エリアスが無事でなかったら、私が ここに来ると思うかい? あの子の側にいるはずだろ? エリアスは元気になる。信じて欲しい」と、静かに話しかける(1枚目の写真)。「僕、殺してない?」。「ないよ」。「死んだと思った」(2枚目の写真)。「生きてるし、怪我も治る。元通りに」。ここで、クリスチャンは、母のことを話し始める。「僕、想像できなかった。子供が若返ると どうなるか」。「死んだら?」。「大人が死ぬと、子供に戻る。ママが そう。少女みたいだった。大人じゃなかったみたい。ママじゃなかった。とても悲しかった」(3枚目の写真)。アントンは、急に、哲学者になったような口をきく。「人と “死” の間には、一定の距離がある。しかし、その距離がなくなる時がある。それは、愛する誰かを亡くした時だ。その一瞬 はっきりと意識する。“死” の存在を。しかし、やがて距離は戻り、人は生き続ける。何事もなかったように」〔これまでのアントンを見ていると、彼にはこのようなことを話せる器量はない〕。アントンがクリスチャンを連れてサイロから出てくると、恐らく、アントンが連絡しておいたのであろう、クラウスが迎えに来ている。それを見たクリスチャンは、父と和解して抱き着く(4枚目の写真)。

翌日、クリスチャンが寝ていると、父が起こしに来る(1枚目の写真)。エリアスの母が迎えに来たからだ。エリアスの病室では、弟のモルテンが指先でエリアスを触っては、くすぐったい思いをさせて楽しんでいる(2枚目の写真、矢印)。エリアスは、当然、「モルテン、覚えてろよ」と言うが、父までが脇の下を突く。エリアスの母は、クリスチャンと一緒に仲良さそうに廊下を歩いて病室に向かうが(3枚目の写真)、彼女は、車の中で “クリスチャンを自殺未遂に追い込んだ” 失言を詫びたのだろうか? クリスチャンが病室に入ってくると、アントンが抱き締めるが(4枚目の写真)、彼は、自分のラースに対する不作為が、“クリスチャンを自殺未遂に追い込んだ” ことを認識しているのだろうか? もし、エリアスが爆破について話していれば、いくら何でも気付いたはずで、この抱擁には、“詫び” が込められていた可能性もある。

アントンは、2人だけになるよう 家族を連れて出て行く。クリスチャンは、ドアを閉めると、エリアスの前まで行き、「痛くない?」と訊く(1枚目の写真)。「薬 効いてるから」(2枚目の写真)。エリアスは、さらに、「警察の人に、全部 話したよ」と言う。「何でかな。何日も眠ったのに、まだ疲れてる」。「謝りたくて」。「謝ることない」。「ごめん。バカだった」(3枚目の写真)「いいってば」。「早く、学校で会いたい」。「うん、僕も」。

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